スリランカ南西海岸にある世界遺産の城塞都市ゴール南郊のウナワトゥナに滞在中だったが、本日で切り上げてコロンボに帰る。
ウナワトゥナは南西モンスーンの季節でも海に入れる南西海岸唯一の入江の村で、昔は鄙びたいい漁村だった。1980年代になって欧米のヒッピーやヌーディストらが滞在するようになり、素朴で鄙びた、知る人ぞ知るリゾートという形で少しずつ変貌を遂げてきたが、半農半漁の人の暮らしは変わらず、浜からは毎朝、漁師たちが手漕ぎのアウトリガー付きカヌー(オルワ)で出漁していき、道を歩けば牛の鳴き声が聞こえた。
一変したのは、2004年のスマトラ沖地震に伴うインド洋大津波が襲ってからだ。村は壊滅し、知人らを含め多くの人が死んだ。復興した後のウナワトゥナは観光リゾート地として名を上げる一方で、宿泊施設や飲食施設などの観光業以外には村人の生活が見えなくなり、そこを欧米人や最近は中国人のリゾート客が闊歩する。
私がここを初めて訪れたのは1985年。ジャングルでの遺跡探査活動を終え、隊を離れてひとりで「海水治療」にやってきたのだ。以来、大津波後もジャングルを出た後は毎回ここにやってきて定宿で一週間ほどを過ごし、毒ダニや毒アリ、蚊などに食われまくって化膿した体中の数十か所の傷跡を癒すことにしている。海水で虫刺され痕が治るのか。関野吉晴ドクターによれば「そんなことはない」そうだが、治らなくても癒されるのは確かだ。
そんなわけで今回もやってきて、探査の残務整理をしつつ海に浸かった。クラウドファンディングの募金に応じていただいた51人の支援者や、NPO会員、関係者へのメールや絵葉書を書き、あちこちに報告のメールを送り、探査遺跡の見取り図を描き……。仕事に飽きると海に出て入り江の半分500mほどを2、3本泳いで (疲れていて一度には泳げない)、あとは穏やかな波間に体を浮かべる。写真は実は2年前のものだが、まったく同じ情景だ。
で、傷跡が治ったかというと、歳のせいもあるのか今回はまだ治らず、夜中に痒さで目が覚めるほどなのだが、そこはそれ、何事にも潮時というものがある。明日はコロンボの考古局で、相手側の調査資料とのすり合わせや、NPOから寄贈したドローンの譲受書類の交換などが待っている。日本には結局、傷跡だらけの体で帰ることになりそうだ。ところで、先に帰った学生たちの傷跡は治ったのだろうか?